◆無機物(金属イオンなど)の廃液について
重金属イオンを高濃度に含む廃液は、毒性があるので、そのまま下水に流すのは好ましくない。ただ、事業所からの排水には規制があるが、家庭の場合、少量ならば大きな問題はない。量が多かったり、濃度が高ければ、何らかの方法で重金属イオンを沈殿させ、ろ別して体積を少なくして、保管しておくなり、廃棄物業者に委託するなりする。どのくらいなら「少量」で、どのくらい以上なら「多量」なのかは、一概には言えないし、人間を含む生物に少量は必ず必要であるという金属もある。
少なくとも、重金属イオンには毒性があること、下記のような排水基準があること、排出する場合には、濃度や総量に気をつけるべきであることを念頭にはおいておくべきである。
水質汚濁防止法に基づく排水の基準(許容限度)をあげると次のようである。
鉛およびその化合物 1リットル中1mg
銅 1リットル中3 mg
六価クロム 1リットル中0.5mg
亜鉛 1リットル中5 mg
クロム 1リットル中2 mg
溶解性鉄 1リットル中10 mg
水に溶けている重金属イオンを沈殿させる方法としては、水酸化物にする方法が簡便である。銅イオンや、クロムイオンが溶けている水溶液にアルカリを加えると、それぞれ、水に不溶の水酸化銅や水酸化クロムとして沈殿する。ただし、これらは、酸性になると、再び溶け出すという性質がある。
クロムでも、重クロム酸カリウム(二クロム酸カリウム)といった、六価のクロムは、特に毒性が高いので排水の基準も厳しくなっている。還元して三価のクロムにしてから、処理をする。
◆廃液のpHの管理
廃液処理の場合、pHの管理も重要である。強い酸性やアルカリ性の廃液は、様々な問題を引き起こす。大量の水で薄めれば捨ててもいいということにもならない。酸性度はpHという尺度で示すが、pH=2の廃液を薄めて捨てる場合、100倍に薄めてもpH=4であり、まだ廃液としては酸性が強い。しっかりと中和すべきであろう。中和して塩類にしさえすればそのまま下水に流しても問題ない。酸の場合は、炭酸水素ナトリウム水溶液を注いで中和すると、二酸化炭素の泡を出しながら中和が進行するので、便利である。泡がでなければ、酸が過剰になったことを示すことになる。
また、アルカリ性の水溶液を中和しようとして、中性を通り越して酸性になると、有毒ガスが発生する場合がある。たとえば、塩素系漂白剤が溶けていた場合は、毒性の高い塩素ガスが発生する。
◆有機物の廃液について
染料や界面活性剤などの有機物の廃液は、環境に流れ出れば、微生物による分解を受けることになる。その汚れの尺度としてBOD(生物化学的酸素要求量)というものがあるが、これは、排水中に含まれる汚染有機物を分解するための微生物を生育させるために必要な酸素(微生物といえども、生きていくためには酸素が必要)の量を示した値で、この値が大きければ大きいほど、汚染がひどいことを示す。天然物で、廃液自体に毒性はなくても、大量だと、環境がそれを浄化する能力が追いつかないことになる。味噌汁1杯を流しに流しても、自然に還すためには、味噌汁の何百倍もの水量の中に生息する微生物の働きが必要である。
なお、界面活性剤に関しては、天然の油脂から作られるセッケンでも、石油から作られる合成洗剤でも、現在では、環境における分解のされ方に大きな違いはない。セッケンの方がセッケンかすが生じることから、どうしても大量に使用されることになるので、環境に対する負荷が大きくなる場合もある。なお、合成洗剤の中には、分解されて、生物の生殖に影響するホルモンと同じ作用を持つ、環境ホルモンと呼ばれる物質になるものもあり、最近問題になっている。どのような物質が環境ホルモンとなるかは、すべてわかっているわけではないが、界面活性剤の成分として含まれているものとしては、ノニルフェノールという物質が疑われているが、家庭で洗濯や食器洗いに使用されている洗剤の場合は、環境ホルモンとなる物質が出てくることはほぼないといっていい。
家庭で使われている合成界面活性剤には催奇形性があるという報告がなされたことがあったが、現在では、その可能性はぼほ否定されており、経口毒性については、実際上問題ないという結論に至っている。ただし、環境に排出された界面活性剤が、本来は水に不溶性の有害物質を水中に可溶化させ、生物がそれを摂取するという役割を演じていることは十分ありうる。
染色液の廃液の場合、染料濃度が高い場合はもちろん、処理がなされて染料濃度が極めて低くなっても、まだ着色していることが多いので、問題になる場合が多い。和歌山で、染色工場からの廃液の色の濃さについての規制条例ができたこともある。染色工場では、バクテリアによる分解処理が為されて排水されている。