いつでもできる、藍の「生葉」染め
−タデアイの葉の保存方法−
藍の生葉染めは、新鮮な葉が取れる時期のみ行うことができる染色である。タデアイを自ら栽培する人も増えているが、せっかく作ったたくさんのタデアイの葉も、枯れると、藍の葉の中のインジカンが、葉の組織が破壊されることで酵素と出会うので、インジゴに変化してしまい生葉染めには使えなくなる。そうかといって、建て染めをするために家庭ですくもを作るのは大変で、手間がかかりすぎる上に、かなりの技術も備えておかないといけない。そういったことから、生葉をこのまま保存することができたら、翌年の新しい生葉が取れるまで、いつでも手軽に藍染めを楽しむことができるのではないかと考えられる。冷凍保存も考えられるが、葉の組織が壊れインジゴが生成するため、いい方法ではない。
インジカンは熱湯で容易に生葉の中から分解せずに抽出できることは、すでに報告されている[*1]。ところが、タデアイの葉を加熱して乾燥させようとすると、乾燥するのに長時間かかる上に、加熱が周りから徐々に起こるためか、乾燥途中で酵素が働き、インジカンの分解がかなりおこり、多くのインジゴが生成する。生葉の加熱で、一気に酵素を失活させることができたら、葉の中にインジカンだけを残せるのではないかと考え、生葉を電子レンジで乾燥させたところ、もともと生葉に含まれていたインジカンの90〜93%が葉の中に保持できることがわかった。電子レンジは水分子に直接働きかけるので、葉の組織が壊される前に水分が蒸発して、熱に弱い酵素のみを失活させて、熱に強いインジカンを残したまま乾燥できたためである。
*1:高木 豊「藍の生葉染め基礎知識入門」、染織α No182、18-23(1996)
生葉染めは、インジカンに酵素が働かないと行うことはできない。その酵素は、乾燥中に高温になった電子レンジ乾燥葉の中には無くなっている。自然に枯れたタデアイの葉の中に酵素が残っていたら、染色に使えるのではないかと考え、半月ほど自然乾燥させた葉を、先ほどの電子レンジ乾燥葉からのインジカン抽出液に混ぜて染色してみたところ、水色に染色できた。さらに1年以上も前の自然乾燥葉を混ぜても、水色に染めることができた。つまり、タデアイの葉の中の酵素は、枯れた後でも失活せずに葉の中に保持されているということである。得られた染色布は、通常の生葉染めと同程度の濃さの浅葱色であった。
藍の生葉染めに必要なものはインジカンとそれを分解する酵素である。これらのことから、インジカンは電子レンジで乾燥させた乾燥葉の中に保存し、使いたい時に必要分だけ熱湯で抽出して取り出し、酵素源となる自然乾燥させた葉と合わせれば、季節に関係なく、生葉染めと同じこと(使うのは生葉ではなく乾燥葉であるが、染色の原理は生葉染めと同じ)をすることが可能である。
具体的な方法は、以下の通りであり、詳細は次の文献に掲載済である。この方法をどこかに紹介・引用される場合は、必ず次のいずれかの文献を明示して下さい。
◆川崎充代、牛田智 「いつでもできる藍の生葉染め−藍の生葉の保存と染色方法」、染織αNo246、p69-72
(2001)<2001年9月号>
◆牛田智、川崎充代 「インジカンを保持した状態での藍の葉の保存とその染色への利用」、日本家政学会誌、52巻、1号、p75-79(2001)
いつでもできる「生葉」染めの方法について
この方法では、タデアイの自然乾燥葉と電子レンジ乾燥葉が必要となる。以下に、数gの絹のハンカチを染める場合の方法を記す。
電子レンジ乾燥前 | 電子レンジ乾燥後 |
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この染色方法を正しく行うためには、藍の生葉染めの原理を把握していることが望ましい。藍の生葉染めは、
というプロセスで進行する。生葉染めが、生葉の状態でしかできないのは、葉が風乾すると、また、葉を粉砕すると、上記のプロセスを進行させるインジカンと酵素が出会ってしまうからである。インジゴが生成してしまうと、水に溶けないので繊維内部に侵入することができず、その場合は別の方法(通常の藍染めである、建て染めという方法)で染色するしか方法がない。
葉をそのまま保存しようとして自然乾燥させれば、インジカンはインジゴに変化してしまうが、酵素は熱に弱いので、瞬時に加熱することで働かなくなり、インジカンは葉の中に残る。
藍の葉が乾燥すると、インジカンは変化するが、酵素は変化しないので、自然乾燥葉の中には酵素が残っている。したがって、インジカンと酵素をうまく出会わせることができれば、生葉染めと同じことができることになる。
藍の生葉染めは、生の葉を用いるのでこの名がある。生の葉を水につけてインジカンを溶かしだし、水中でインジゴに変化させてから建て染めで染色する場合、その染色の原理は建て染めと同じになるが、生の葉から連続的に行うため、「生葉染め」の中に含められる場合もあるが、ここでの「生葉染め」は、インジカンが分解して生じたインドキシルを繊維にしみ込ませ、酸化させてインジゴを繊維内部に生じさせて染める方法のことを指す。ただし、乾燥葉を使う場合は、原理的には「生葉染め」であるが、生葉を使うというわけではないことになる。なお、生葉染めでも、建て染めでも、酸化によって繊維内部でインジゴが生成する。酸化が起こる前の物質は、生葉染めではインドキシルで、建て染めではインジゴの還元体(いわゆるロイコ体、あるいは白藍)であり、全く違う物質である。
2004年3月1日作成