塩酸 HCl【劇物】
代表的な強酸で、塩化水素というガスが水に溶けたもの。最高濃度の塩酸(濃塩酸)の濃度は約35%。非常に強い酸であるので、濃度が高ければ危険である。トイレの洗浄剤としても使われている。こぼしても、最終的には揮発するので残留するといったことはない。
硫酸 H2SO4【劇物】
代表的な強酸であり、酸としての性質以外に、酸化作用を持っており、特に作用が激しい。こぼすと、揮発しないので、いつまでも酸が残ることになる。
酢酸
米のデンプンを発酵させて酒(エタノール)ができ、さらに酸化が起こると酢酸が生じる。その酢の成分の純粋なものを酢酸と呼び、100%近い純度のものは、冬になると氷結するので「氷酢酸」と呼ばれる。市販の酢酸は、この氷酢酸か、純度90%程度の酢酸か、食酢は、純度5%程度である。食酢のような低濃度の酢酸は、皮膚についても、蒸気に触れても、問題ないが、濃度の濃い酢酸は、弱酸ではあるが刺激性がある。「食酢」と同じと油断してはならない。
水酸化ナトリウム NaOH【劇物】
強アルカリ性の物質で、多くは粒状で市販されている。慣用名が苛性ソーダである。「ソーダ」とは、オランダ語の「ナトリウム」のことで、英語なら「ソディウム」である。「苛性」とは、皮膚につけると焼けるようにただれるという意味。アルカリ性が強いということから、劇物に指定(購入に印鑑が必要)されており、取り扱いには細心の注意を要する。水溶液は劇物指定ではないので、より簡単に購入できるが、危険度には変わりない。アルカリが皮膚につくとヌルヌルするが、これは皮膚が溶けるからである。手の皮膚ぐらいが溶けても、大したことはないが、目に入って角膜が溶けてしまうと失明に至ることがある。
滴下した液が跳ね返ってしずくが飛ぶことがある。このしずくが飛ぶ距離は、意外に大きい場合があり、水酸化ナトリウムの液を(に)滴下したりするときには、目を近づけないように注意する必要がある。
水酸化ナトリウムの市販品は、直径数mmの粒状であるが、瓶の底には粉末状になっていることもある。その粉が舞い上がって目に入ることがある。このような事故は、メガネやゴーグル(水泳用など)をすることで、防ぐことができる。事故は気を付けていれば起こらないと考えがちであるが、ちょっとした思わぬスキに起こってしまうものである。注意するにこしたことはない。
万が一目に入った場合は、まぶたを広げて15分間流水で洗浄する。洗浄開始は早ければ早いほどよい。水溶性の薬品なので、洗えばすぐに流れ出ると思いがちであるが、体の組織の中に入り込んでいるので、15分以上洗浄を続けるのが望ましい。皮膚についた場合は、目ほどではないが、すみやかに長時間(ヌルヌルがとれるまで)洗浄する。
炭酸ナトリウム Na2CO3
水酸化ナトリウムと炭酸(二酸化炭素が水に溶けたもの)を中和してできる塩。中和といっても、強いアルカリと弱い酸を中和しているので、アルカリの性質が残り、この物質の水溶液はアルカリ性である(水溶液のpHは約11.6)。ただし、アルカリ度は、水酸化ナトリウムほど強くはない。無水塩はソーダ灰、結晶水を持つ10水塩は洗濯ソーダとも呼ばれる。
炭酸水素ナトリウム NaHCO3
水酸化ナトリウムと炭酸(二酸化炭素が水に溶けたもの)を部分的に中和してできる塩。重曹(重炭酸ソーダ)として料理にも使われる。水溶液は弱いアルカリ性である(水溶液のpHは約8.3)。酸の中和にも使用することができる。炭酸ガスの泡を出しながら中和が起こるので、わかりやすい。
炭酸カリウム KCO3
水酸化カリウムと炭酸(二酸化炭素が水に溶けたもの)を中和してできる塩。中和といっても、強いアルカリと弱い酸を中和しているので、アルカリの性質が残り、この物質の水溶液はアルカリ性である(水溶液のpHは約11.6)。ただし、アルカリ度は、水酸化ナトリウムほど強くはない。木灰のアルカリの主成分である。
水酸化カルシウム Ca(OH)2
慣用名を消石灰(ショウセッカイ)といい、酸化カルシウムと水の反応で得られる。強いアルカリであるが、水への溶解度は低い。
酸化カルシウム CaO
慣用名を生石灰(セイセッカイまたはキセッカイ)と言い、水に入れれば、消石灰となる。炭酸カルシウム(石灰石など)を熱分解することで得られる。
■塩(エン)
硫酸ナトリウム Na2SO4
硫酸と水酸化ナトリウムが中和してできた塩(エン)。強い酸と強いアルカリが中和してできているので、この水溶液は中性である。慣用名を芒硝という。染着量を高める「染着促進剤」などとして用いられる。
ハイドロサルファイトナトリウム Na2S2O4
家庭用の漂白剤にも使われている物質で、略称はハイドロ、正式名称は、亜二チオン酸ナトリウム。還元作用を有する。飲んだり、粉塵を吸ったりして体の中に入れば有害であるが、特に問題がある物質ではない。皮膚についても、すぐにどうなるわけではなく、水で洗えば問題ない。環境に放出されれば、何かを還元することで、自らは亜硫酸ナトリウムや硫酸ナトリウムに変化しするので、大量に流さない限り問題はない。
■金属塩媒染剤(物質の種類としては「塩」)
鉄媒染剤
次の塩がよく用いられる。鉄分は、いわゆるミネラルと呼ばれる栄養素(鉄、リン、マグネシウム等)のひとつであり、赤血球の中で酸素を運ぶ役割を担っていて、生物にとって重要な元素であるが、量が多ければやはり毒となる。
塩化第一鉄【有毒性】FeCl2
塩化第二鉄FeCl3
硫酸第一鉄FeSO4
緑礬とも呼ばれ、媒染剤や還元剤に使われる。
硫酸第一鉄Fe2(SO4)3
木酢酸鉄
木酢とは、木材を乾留してとれる黒褐色の液体で、酢酸を含んでおり、鉄と反応して酢酸鉄を生じる。
クロム媒染剤
クロム自体は、ニクロム線やステンレス合金の成分として、金属の状態では身近に存在している。金属の状態では水に溶けず、体内に吸収されることはないので、毒性はないが、イオン(塩)の状態になると吸収されて毒性を発揮する。その毒性の強さは酢酸クロムのような3価のクロムより、重クロム酸カリウムのような6価のクロムの方が大きい。
酢酸クロム【毒性はあるが、指定無】 (CH3COO)2Cr・6H2O
青紫色の結晶、水溶液緑黄色。
重クロム酸カリウムK2Cr2O4【有毒性】
酸化作用が強く、毒性も高い。1975年頃「六価クロム問題」という公害問題が発生したこともあった。
銅媒染剤
銅自体も、金属の状態では身近に存在しているが、イオンの形の銅には毒性がある。ただし、それは濃度が高い場合の話であって、銅イオンも、生物が生きていく上で微量に必要な元素(生物に必要な微量元素としては、銅、コバルト、マンガン、亜鉛、クロム、モリブデン、セレンなどがある)である。銅イオンとして働く時は、酢酸銅であっても硫酸銅であっても特に違いはない。ただし、単位重量当たりに含まれる銅イオンの量が異なっているので、互いに代用するような場合には、使用する量に注意する必要がある。
酢酸銅【劇物】 (CH3COO)2Cu・H2O
硫酸銅【劇物】 CuSO4・5H2O
スズ媒染剤
スズ媒染は、スズ酸ナトリウムや塩化第二スズが用いられるが、いずれも、イオン性のスズが媒染剤の役割をするので、役割に大きな差はない。なお、船底に貝が付着しないように有機スズを混ぜた塗料が使われ、環境問題になっている。水にはほとんど溶けないが、微量に溶出して生物の体内に入り、毒性が発現する。
スズ酸ナトリウム Na2SnO3・3H2O
スズ媒染に最もよく用いられる。水溶液はアルカリ性を示すので酸で中和して用いるのがよい。
塩化第一スズ【劇物】SnCl2
還元作用がある。
塩化第二スズ【劇物】SnCl4
アルミ媒染剤
みょうばん(明礬)
硫酸アルミニウムと1価の金属の硫酸塩からなる複塩であるが、
AlK(SO4)2・12H2O のカリ明礬(硫酸カリウムアルミニウム)を指すことが多い。
焼き明礬は、ここから、結晶水の水分子がとれた、無水物で、AlK(SO4)2
である。水和物より、粉になりやすく、また、重量的にも少量で効果がある。
いずれも、アルミニウムイオンやカリウムイオンが媒染剤として働く。
アンモニウムみょうばん
硫酸アンモニウムアルミニウム、AlNH4(SO4)2・12H2O のことで、
カリみょうばんのカリウムイオンがアンモニウムイオンにおきかわったもの。
酢酸アルミニウム (CH3COO)3Al
酢酸アルミニウム自体は水によく溶けるが、しだいに水酸化物が沈殿してくるので、
可溶性にするために、硫酸アルミニウムを加えたものが、可溶性酢酸アルミニウム
として市販されている。
■その他の無機物
次亜塩素酸ナトリウム NaOCl
塩素を水酸化ナトリウム水溶液に溶かすと、この物質の水溶液となる。漂白剤や殺菌剤として用いる。酸性にすると猛毒の塩素ガスが発生する。
次亜塩素酸ナトリウム Ca(OCl)2
カルキとも呼ばれ、漂白剤や殺菌剤として用いる。酸性にすると塩素ガスが発生する。
過酸化水素水 H2O2
酸化作用を持つ液体で、濃いものは30%程度のものが市販されている。薄い溶液は、怪我の消毒などに用いられており、薬局方では、オキシドールと呼ばれる。濃い過酸化水素水は、刺激性があり大変危険である。
過ほう酸ナトリウム NaBO3・4H2O
家庭用酸素系漂白剤や、藍発色剤に用いられる。過酸化水素の代用。
参考:漂白剤について
漂白とは・・・着色物質を酸化や還元という化学反応で、色のない物質に分解すること
漂白力の強さ・・・・塩素系 > 酸素系
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■有機物
界面活性剤
溶解剤、溶解促進剤、洗剤、ソーピング剤などとして、様々な種類のものが染料店から市販されている。界面活性剤はセッケンや合成洗剤の成分として汚れを落とす役割を果たしたり、普通は混じりあわない油と水を細かいつぶ状に分散して混じり合った状態(このような状態にすることを乳化という)にさせることができる。市販のフレンチドレッシングは油と水が分離しているものもあるが、界面活性剤が入って乳化しているタイプのものもある。また、卵黄の中にはレシチンという界面活性剤が含まれているので油脂と卵は混じりあうことができ、マヨネーズとなるのである。
界面活性剤は、分子内に親水性部分と疎水性部分を同時に持つような物質で、水にも油にもなじみやすい性質を持っている。セッケンが最も代表的な界面活性剤である。合成洗剤には、化学合成の界面活性剤が含まれている。どちらもその役割は同じであるが、セッケンが、水道水や井戸水の中に含まれているカルシウムイオンやマグネシウムイオンなどと水に溶けにくい塩を作り、セッケンカスという沈殿物を作るのに対し、合成の界面活性剤は、そのようなことが起きない。セッケンカスを生じさせないようにするためには、カルシウムイオンやマグネシウムイオンを含まない水(軟水)を使えばよい。日本の水は、欧州の水に比べて硬度はかなり低いが、それでも幾分かのカルシウムイオンやマグネシウムイオンを含んでいる。井戸水などで、硬度の高い水は、煮沸により軟化できることもあるが、完全に軟化するには化学的な方法しかなく、実際上は無理である。
なお、セッケンカスは、酸で処理すると酸性セッケン(弱アルカリ性であるセッケンの水溶液を、酸性にすると生じる物質。汚れを落とす作用はない。)となる。酸性セッケンは、水への溶解性は極めて小さいが、合成の界面活性剤などで乳化させることは可能である。セッケンカスは、衣類や毛髪に吸着しやすく、時間がたつと黄変する。また、毛髪の場合は櫛の通りを悪くしたり、頭皮のかゆみの原因になったりする。
パークレン【有毒性】 CCl2=CCl2
ロウケツ染めの脱ロウ剤として使われる。また、ドライクリーニングの溶剤としても使われる。発ガン性が懸念され、地下水汚染や土壌汚染などの問題がよく取り上げられる。パークロロエチレン、テトラクロロエチレンとも言う。
1989年に化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の規定に基づく、「第2種特定化学物質」に指定された。また、水質汚濁防止法に「有害物質」として加えられ、1989年から地下浸透の禁止、公共用水域及び公共地下水道への排出基準(1リットル中0.1mg)の設定などの措置が講じられた。さらに、1996年の大気汚染防止法の改正を受けて、一般環境中の濃度が規制されることになった。クリーニング業界では、廃水や大気中へ排出されないように、細心の注意が払われている。
メタノール【劇物】
アルコールの一種で、エタノールと同種類の物質であるが、エタノールがお酒の成分で飲用しても毒性はないのに対して、メタノールは失明が起こるなどの毒性がある。