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パリのモンパルナス駅MomtparnasseからTGVに乗って、ロワール川の下流の城下町であるアンジェへ向かおう。ここには、ヨハネの黙示録のタピスリーがある。
ロワールの古城の中でもアンジェ城は最も川下にある。ロワール川の支流であるメーヌ川沿いのロゼのワインVin Roseで有名なアンジェの町の崖の上にアンジェ城はそびえている。堀に囲まれたこの城は、壮大で厳めしく、それだけでも訪れる価値のある城であるが、ここにあるヨハネの黙示録のタピストリー(Tapisseries de l'Apocalypse)を見るためだけに訪れても決して損はない。
アンジェへはパリのモンパルナス駅からフランス自慢の新幹線であるTGVの新路線(大西洋路線)で行くことができる。車両もリヨン方面のオレンジ色とは違い、ブルーとシルバーを基調にした颯爽たる列車である。アンジェまでの所要時間は約1時間半。 パリ・モンパルナス駅発を9:00に出れば、10:29に着く。24時間耐久自動車レースで有名な、ルマンを経由するが、この列車は止まらない。アンジェからさらに先に行けば、世界史で習った「ナントの勅令」で有名なナントがある。
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TGVアトランティック。パリのモンパルナス駅から大西洋方面に向かう。 |
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オレンジ色のTGV。パリのリヨン駅から、リヨン・地中海方面に向かう。ただし、このオレンジ色の車両はもう古い。 |
車両も、パリとリヨン間に最初にTGVが開通したときに登場したオレンジ色の車両とは違い、ブルーとシルバーを基調にした颯爽たる列車である。駅に行くと、各方面別の時刻表がもらえる。それで列車を調べ、予め予約しておくとよい。TGVは、全席指定席である。窓口で切符をとることもできるが、自分で機械を操作して予約することもできる。 フランス国鉄の長距離路線には、改札はない。ただし、列車に乗る前に、オレンジ色の機械で、切符に刻印しておく必要がある。
TGVの予約ができる機械 | 乗車前に、切符に刻印をする機械 |
アンジェ城へ
駅からアンジェ城までは、ちょっと遠いが、歩けない距離ではない。鹿が草を食べていたり、花壇があったりする 堀の上にかかる橋を渡り、城壁をくぐって城内に入る。アンジェ城を観光する際、夏のジーズン中(6月1日頃から9月15日頃)は、9時から19時まで空いているが、オフシーズンの場合は、9:30から17:30で、12:30から14時に昼休みとなるので、見学時間には十分注意する必要がある。
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アンジェ城の城壁 | アンジェ城の堀 |
この城壁は、上を回遊することができるようになっている。場内には、黙示録のタピストリーを展示するための特別に作られた展示室やチャペルがある。タピスリの展示室に1歩足を踏み入れると、高さ5メートル、長さ百メートルのタピストリーがかけられている壮大な光景(写真)が目に入ってくる。
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このタピストリーは、大きく6つの部分に分かれており、各部分2段になって各段7つずつの絵で構成されている。従って、全部で84場面からできているわけであるが、1部は欠落している。ニコラ・バタイユという人が、14世紀に、アンジェ公ルイ1世のために作ったもので、聖書の中のヨハネの黙示録の物語が忠実に描かれている。黙示録とは新約聖書巻末の一書で、キリストは敵対者を滅ぼして神の世界支配を再び確立し、信徒は、しばらくは迫害を受けなくてはならないが、いずれは至福の生活に導かれるということが、ヨハネ(12使徒のヨハネやバプテスマのヨハネとは別人)の見聞した不思議な物語として表されている。この物語のすべてがタピストリーとして具現化されているのである。
たとえば、最初にヨハネがキリストに出会った場面を、聖書は「ふりむくと7つの金の燭台が見えた。」「足まで垂れた上着を着て、胸に金の帯を締めてしめている人がいた。」「その右手には7つの星を持ち、口からは鋭い剣が突き出ていた。」「私はその足元に倒れて死人のようになった。」のように書いているが、まさにその場面が忠実にタピストリーに描かれている。そしてヨハネは、赤い衣に包まれて本を持ち冷静に眺めている。
また、黙示録の本文には、6つの翼のある生き物とか、それぞれに冠をかぶった7つの頭と十の角を持つ龍とか、獅子のような口を持つ頭7つと熊の足を持つ獣とか、太陽を着た女とかが現れるし、たいまつのように燃えている大きな星がふってきたり、酒樽から血が流れ出たりする場面が出てくる。それ以外にも具体的に情景として表現するのが難しい記述が多いにもかかわらず、想像力たくましく見事にタピストリーに表されていて、見ていても飽きることがない。ヨハネの黙示録をビジュアルに、しかもこれほどの大きな規模で作り上げようとした意図は何だったのか、不思議な気さえする。
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現地にはテープによる英語の説明などもあるが、是非日本語訳の聖書(ヨハネの黙示録の部分)を持っていかれることをお勧めする。聖書の中で展開されるストーリーを理解しながらこの壮大な絵巻を眺めれば、その印象も十倍、百倍となるに違いないからである。描かれていることの意味を十分理解しないまま眺めたり、ただ、大きくて有名なタピストリーがあることを確認するだけのために訪ねることになってしまうのはあまりにももったいない。また、かなり高さのあるものなので、小さな双眼鏡が鑑賞の手助けになるに違いない。
タピストリーの色は今はあせており、原色に近い色としては青や赤(インド藍と茜だと思われる)が残っているだけであるが、オリジナルはどのような色だったであろうか。元々は、高さが20フィートの作品であった。この大きさは、織機の長さに依存しているらしい。何人かが並行してひとつの作品を織って行ったと思われる。
アンジェ城内のチャペルの中には、キリストの受難を題材としたものなどの、注目すべき中世のタピストリーがいくつかある。これらは、パリのクリュニー美術館にもある千花模様のタピストリーである。「キリストの受難の壁布Tenture de la Passion」は、キリストの受難に関わるものを持った天使を描いた4面から成るフランドルのタピストリーであるが、1面は紛失している。水差しとお盆を手にした天使Ange porteur de l'aiguiere de Pilate、十字架を持つ天使Ange portant la croix、円柱を持つ天使Ange a la colonneが、小さな花に囲まれて描かれている。また、「オルガンを弾く女Dame a l'Orgue」というタピストリーもある。これらはチャペルの2階にあり、普段は鍵がかかっているが、ガイドによるツアーで見せてもらえる。
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アンジェは、タピスリの街である。現代芸術におけるタペストリー制作活動で忘れてはならない存在であるジャン・リュルサ(Jean Lurcat 1892〜1966)の美術館がアンジェにある。彼は、アンジェの黙示録のタピストリーから強い影響を受けて後、この芸術に情熱を傾けていくことになった。彼の作品や現代のタピストリーtapisserie contemporaineが、中世の病院を美術館にしたリュルサ美術館にある。彼の代表作である「世界の歌Chant du Monde」のシリーズが病室であった部屋の壁に展示してある。